スマートホームの世界では、ほぼ唯一無二のアプリ
先日、Silicon Labs Works With 2024にて、Matter に関する会議が開催されました。エコシステム、デバイスメーカー、開発パートナーなどにとって、Matter の現在の状態、その課題と限界、その欠点に対処するための措置、将来登場する新しいデバイスタイプ、そして現在取り組んでいる新しい市場やユースケースについてさらに深く学ぶ絶好の機会でした。
この会議の目的は関係者によるよりオープンで率直な会話を促進することでした。そのため、以前の Works With イベントで行われたようにイベントのストリーミング配信や録音は行われませんでした。これにより、出席者は良い点、悪い点を含めて規格の目標に対する混乱や一般的な懸念について、自身の様々な経験を共有することができました。率直なフィードバックは心地よいものではありませんが、耳を傾けることは重要です。
私たちが聞いた混乱の例の 1 つは、モバイルデバイス上の複数のアプリの必要性についてでした。Matterは、他のすべてのスマートホームアプリは不要になるということですか?もう二度と、スマートホームアプリをダウンロードする必要はありませんよね?ほぼ、そうです。
Matter は、標準仕様でコミッショニングを大幅に簡素化し、IP ベースの IoT 通信を標準化するために、相互運用性のベースラインを提供する優れた成果を上げました。これにより、多くの新規および既存のデバイスメーカーは、Matter が既に提供している基本的なコミッショニングとの重複を避けることができます。Matter デバイスのセットアップに改善の余地がないという意味ではありませんが、目標は独自の改善が中途半端なものではなく真に革新的であることを保証することです。
スマートホームアプリについては、次の 3 つのカテゴリーに分類されます。
- ゼネラリスト向けスマートホームアプリ
- デバイスの機能アプリ
- サービスアプリ
ゼネラリスト向けスマートホームアプリ
Matter からアクセスできるシンプルな機能はたくさんあり、ユーザーは 1 つのアプリでほとんどの機能を実行できます。Matter は、すでにほとんどの一般的なデバイスタイプをサポートしています。簡潔に言うと、スマート電球のメーカーが異なるからといって、電話に複数の照明アプリをインストールする必要はありません。
基本的なホーム・オートメーションのほとんどを処理するアプリは、ジェネラリスト向けスマートホームアプリと呼ばれます。これらは、デバイスを異なる部屋やシーン、ルーチンに関連付けてラベル付けし、スマートホームに住む人間の生活に論理的な意味を持たせます。ユーザーは、これらのゼネラリスト向けアプリのどれか 1 つを携帯電話にインストールしていれば十分です。ただし、ユーザーが希望する場合は、ジェネラリスト向けスマートホームアプリを切り替えるオプションも許可することが重要です。Matter の目標の 1 つは、たとえユーザーがスマートホームアプリを 1 つしか使用しない場合でも、複数のスマートホーム・アプリにデバイスを同時にペアリングできるようにし、メーカーのロックインを回避することです。
開発者の視点から見ると、独自のモバイルアプリの作成は比較的ハードルが高く、基本的なアプリとしては標準以下の使用体験となる可能性があります。最近、自宅の離れた場所(ガレージ、屋根裏部屋、温度計が置かれていない部屋)の温度を監視できるように、ハブと多数のリモートセンサーを備えた温度センサーシステムを購入しました。私の目標は、ここボストンの寒い冬と暖かい夏の間の気温変動をより良く理解することでした。これらの温度センサーを使うには、モバイルアプリをダウンロードし、メーカーのウェブサイトでアカウントを作成し、ハブを試運転し、各センサーを個別に試運転し、さらにセンサーにラベルを付ける必要もあり、最終的にようやく私が望む結果を達成できました。システムを監視には定期的にアプリを再起動する必要があり、温度を確認するためにしばしばログインし直す必要もありました。一番不便だったのは、この特定のシステムが機能する範囲が非常に小さく、すべてのセンサーを機能させるためにハブを取り付ける最適な場所を見つけることができなかったことです。結局、このシステムは返品しました。
この体験の全工程で、温度センサーを起動して動作させるためだけに多くの労力が必要でした。ユーザーにとっても開発者にとっても、これではいけません。温度センサーに独自のモバイルアプリが不要であることは明らかで、ゼネラリスト向けスマートホームアプリが温度センサーとその他の機能を簡単にサポートできる分かりやすいケースです。Apple、Google、Samsung、Amazon は、現在のハードウェアやソフトウェアを通じて、こうした体験を提供しています。
スマートホームデバイス機能アプリ
さて、次はロボット掃除機のような、より洗練された機能を見てみましょう。これは、スケジュール、部屋のマップ、除外された吸引エリア、モップか吸引かの制御、バッテリーの充電を示すセンサー、ダストバッグのレベルなどを設定できる、より複雑なデバイスタイプです。Matter はロボット掃除機に対応していますが、ロボット掃除機とそのより複雑な管理を行うために、携帯電話にデバイス機能アプリをインストールしておきたいという要望は当然だと言えるでしょう。現在では一部のより単純な機能を扱うことができ、ゼネラリスト向けスマートホームアプリを使用することができます。開始、停止、または通知などはゼネラリスト向けアプリで簡単に処理できます。お子様向けパーティーの途中でロボット掃除機が作動し始めた場合は、音声アシスタントを使用して、ルーチンを停止または遅延するようにデバイスに指示できるようにするのが理想です。また、デバイスが動かなった場合には Matter 対応テレビなどのより見やすい画面に通知がポップアップ表示されるのが望ましいでしょう。
ユーザーの観点から見ると、専用のアプリが必要な場合は直感的に操作できる必要があります。
開発者の視点から見ると、Matter はよりシンプルなデバイス統合を可能にするだけでなく、専用デバイス機能アプリを介してより複雑なインターフェイス体験を実現する柔軟性も提供します。スマートホーム・モバイルアプリの構築は、すべてのケースで必要に基づいているだけでなく、ユーザ体験とデバイスの機能に基づいて選択できるようになりました。
いくつかのデバイスクラスでは、Matter はその機能セット内で拡張され、主要なエコシステムが進化して、十分なエクスペリエンスをデバイスに提供するため、独自の専用アプリは段階的に廃止することができます。小規模企業の場合、モバイル開発者を雇ってスマートホーム・モバイルアプリを再開発する必要はなく、新しいハードウェア機能の追加に集中できることを意味します。
スマートホーム・デバイス・サービスアプリ
ユーザーにとっては、ジェネラリスト向けスマートホームアプリの機能は単純すぎるが、デバイス機能アプリでは制限され過ぎている、という状況があります。デバイス機能アプリは、1 台のデバイスまたは 1 つのデバイスタイプと対話するための使用に焦点を当てています。ユーザーが望むのは、複数のデバイス間の機能を統合することです。そこで登場するのがサービスアプリです。
例えば、エネルギー管理。Matter は、複数のデバイスが報告するエネルギー使用量のデータを 1 つの場所に集約する手段を実現しました。サービスアプリは、エネルギー使用量の追跡をサポートするために、家庭内の複数のデバイスと対話することができます。エネルギー管理アプリは、HVAC に接続されたサーモスタット、洗濯機、乾燥機、シーリングファンを含むその他の関連デバイスなど、エネルギー消費の大きいデバイスを理解する必要があります。照明やセンサー、あるいはその目標に関係のないその他多くの Matter 対応ノードについては知る必要はありません。ホーム・オートメーションのルーチンを提供したり、音声アシスタントと統合する必要もありません。このアプリは、ユーザーの地元の電力コストや、屋根にソーラーパネルが設置されていること、あるいは家に発電機がつながっていることなどについて知っているかもしれません。エネルギー管理アプリには、時間の経過に伴うエネルギー使用量を示す専用画面があり、これを過去の気象条件と関連付けることができます。家庭やビジネスでエネルギーを微調整してコストを削減したり、より環境に配慮した設定にしたり、隣人の使用量と比較したりする方法に焦点を当てたさまざまなモードがあります。この種のアプリは、ユーザーの Matter ネットワークにアクセスする必要がありますが、他のタイプのアプリの代わりになることを意図しておらず、特にゼネラリスト向けアプリの代用にはなりません。
この種の専門サービスは、インターネット上で一般的です。例えば、Slack。Slack はビジネスでのメッセージ送信には依然として非常に重要です。他の多くのツールと統合され、より良いユーザ体験を提供するために、Slack 内で更新を取得し、すべてとやり取りする手段を提供します。しかし、これは他のツールの代用にはなりません。Slack を Jira と統合して更新を取得し、一部の簡単な操作は実行できますが、Jira に代わるものではありません。ユーザーのスマートホームでも同様のケースが起こり得ます。
スマートホームアプリのまとめ
最終的には、ネットワークをどのように管理するかはユーザー次第です。ゼネラリスト向けスマートホームアプリを 1 つだけ使用したいのであれば、その使い方は簡単です。しかし、もう少し多くの機能が必要な場合は、何をするか、ユーザーがどのアプリを好むかに基づいて、スマートホームアプリをブレンドするオプションがあります。
複数のアプリのオプションを持つことは、企業の専門化し、革新をし、そしてもちろん競争を可能にするため良いことです。デバイスメーカーは、業界最高のデバイスの構築と、ユーザーが望むユニークな要素をアピールすることに集中できます。サービスアプリは、Matter 対応デバイスのタイプをすべてサポートする必要はなく、テーマや特殊なユースケースに基づいてサービスを構築できます。一般的なオートメーションのユースケースには、ジェネラリスト向けアプリを使用できます。
CSAのChris La Pre 技術担当責任者は、これを簡潔に次のようにまとめました。「スマートホームデバイス用に、別のアプリが必要な時が直感的に分かります。」